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ある遭難 [映画]



松本清張原作のこの映画をテレビで見た。原作の映画は今でもこれからも好きであろう。モノトーンの淡々とした人の描写が、好きな景色が描写されていく。わたしが、丹沢を除けば初めての単独行であった後立山連峰縦走。新宿発23時55分。駅構内に長い行列のできる登山列車。みんな同じ仲間である。新宿発23時55分。これほど愛すべき列車は無い。松本、信濃大町、扇沢、爺ケ岳、遠く白馬岳。ドタ靴に大型のキスリング。執行部の認めない山行。わが部の新人養成を乗り越えれば、できな山行はないと自負する。登山がわが青春であった時代である。精神力に絶対の自信があった。白馬山まで全山テントを張った。学生時代は山小屋に払う金は無かった。夏冬の長期登山にはアルバイトをした。先輩の持ってきた、バイト、思い出す麻袋の穀物袋を外国船からのおろす荷役作業。これほど過酷な労働は無かろうと思う。山を登っているとくるしい。ドタ靴の一歩、一歩、が前進である。肉体と精神限界では、不安も恐怖も感じられない。40分と10分のインターバルを繰り返す。標高差をうれしく感じながら登る。映画に出てくる鹿島槍。当時もガスが濃く、広い頂上ではルートを見失う。布引山から鹿島槍。私も槍から五竜岳へのルートを見失った。牛首山へのルートに入っていた。5万分の一のマップを見てもわからない、何も見えないからだ。遭難しなかった理由は牛首は槍の西方向。キレット、五竜岳は北東方向。歩いてる方向はコンパスが西を指していた。わかるところまで戻り、ガスの中を北に歩いた。今あるのは、コンパスのおかげである。五竜で誕生日を迎えた。山を舞台に、山男が、つらい憎しみを、履行する小説に、映画に、嫌悪を覚えるものの、そのタッチは山を、登山家を否定していないように私には思える。原作者の深層心理に感謝する。



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